―なぁ文次郎。
―なんだ。
―お前は泣くのか。
―何を唐突に。
―こういう晩にだ。しんと静まり返って、月がほれあのように美しく、草むらを海のように照らしだす晩に、お前は私を想って泣くか。
夜風がしずかに吹いて、銀色の波がこちらからあちらへと渡っていく。
―学園を出たら、お前も私も忍びになる。忍びが女々しく誰かを想って泣くなぞ、お前にはできぬだろう。
―俺は泣かん。
―それ見ろ。
―今は流れが速いだけだ、岩に割かるるとも川は流れ続ける。俺はそう信じて泣かん。
息をのむ気配がした。
―……ばかもんじ。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川の割れても末に逢はむとぞ思う
(流れがはやいので岩によってわかたれてしまった川が、結局はまた合流するように、今は別れてもまたお逢いするでしょう。なぜならそれが、私と貴方のさだめなのですから!)
mainへ