歓声が弾ける。六年間彼らを守る砦であり、また外出を阻む扉でもあった忍術学園の門は今や大きく開かれて、その先の空へ彼らが踏み出すのを待っていた。
この日を涙の日にしない。初めてここに集ったときと同じように、笑顔の日にしよう。それはもうずっと前から、十一人で決めていた約束だった。旅装を整えた何人かの目は昨日一晩で赤く腫れあがっていたが、それには見て見ぬふりをする。
「よく晴れたね!」
「本当にな。不運委員長の門出だってェのに珍しい」
「きりちゃんっ」
変わらないやりとりに笑い声が重なった。
「本当に、いい染物日和じゃないか、ねえ伊助」
すらりと背の伸びた庄左ヱ門が隣の小柄な友人に声をかける。
彼は家業を継いで、町で友人たちを支援するのだと言っていた。
「庄ちゃんはもう行くのだっけね」
「うん、父さんたちの顔を見たらなかなか出立できないだろうし」
「いつでも会いに来て、と言いたいところだけど…」
伊助は少し俯いた。店を弟に継がせる庄左ヱ門は、忍びとして遠くみちのくの城へ行くのだ。
庄左ヱ門はそんな伊助の肩をたたく。
「庄左、伊助っ!」
呼ばれて振り返れば、いつの間にかは組の九人が重ねた片手を中心に輪になっていた。
二人がそこに合流したと見るや、団蔵がひび割れた声をはって明るく宣言する。
「卒業しても、お互い居所を教え合おう。うちはいつでも助けになるよ」
忍びになる者、家業を続ける者、武家の跡目を継ぐ者。
これからの道はわかれて険しく、団蔵の提案は夢物語に過ぎぬことは分かっていた。
伝わる情報が真実だという証もない。
それでも彼らは頷いた。一人も欠けず十一人で過ごした日々を過去の宝物にはしない。
ここに揃った十一人を、これからの日々のよすがにしよう。
団蔵の横にはくしゃりと顔をゆがめた虎若が、虎若の横には真っ赤に目をはらした兵太夫が、兵太夫の横には一頃と変わらぬ笑顔の三治郎が、三治郎の横には眼鏡の奥が光る乱太郎が、乱太郎の横には頬に擦ったあとの残るきり丸が、きり丸の横には鼻をすするしんべヱが、しんべヱの横には目を三角にして笑う喜三太が、喜三太の横には鼻を赤くした金吾が、金吾の横には微笑む庄左ヱ門が、庄左ヱ門の横には唇を噛んで顔を上げた伊助がいる。
山桜が舞う青空の下で、彼らの思いはひとつだった。
かぎりなき雲ゐのよそにわかるとも
人を心におくらさむやは
(はてしない雲の、さらに遠くに別れても、心の中では君を置き去りになどするものか!)
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