幾世経てのちの世にか忘れん

(何度生まれ変わっても忘れるものか)


 もう駄目だろうと直観していた
 全身から血が失われて、もはや痛みさえ感じない

 動けぬ四肢を投げ出して天を見上げた俺の視界に、お前の顔が見える
 俺の最期に会いに来たか
 いや、お前がこの戦場にいるはずがない
 茶屋で行き会ったあの日からお前の消息はふつりと絶えて、生死すら定かでなかったのだから

 今この目に映るお前は幻だろうか
 そういえば月も星もない夜だのに、お前の面はつるりと白く光っている
 幻でもいい
 会えてよかった

 ああ、そんな悲しそうな顔をするな
 俺が最期に見る光なのだから

 段々薄れていくお前が、口を動かしてなにか言っているか
 すまんな、もう耳も聞こえないんだ

 お前のひそめた眉も、小さな顎も、半月のような面の横で小さな赤い花が揺れているのも、

 白く霞んで遠くなる


 なあ仙蔵
 また会おう。


 ─文次郎ッ!



散りぬべき
野辺の秋萩みがく月夜を





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