「あ、七松先輩!と、三治郎!」

 目敏い誰かの声がして、あとはよかった!だとか探したよ!だとか口々に言いながらは組がわらわらと駆け寄ってくる。名前を呼ばれて、半死半生だった三治郎の意識がゆっくりと浮上してきた。

「七松、助かった。礼を言うぞ」

「いや、山田先生、これも鍛錬の一部ですから」

「そうかそうか。…これで、先生の胃も休めますな」


「いやもうまったく…」

 答える土井先生の声が弱弱しい。
 はぐれたことが先生方まで伝わってしまっていたかと三治郎は目を瞑ったままで後悔する。どうやら思っていた以上に大事になってしまっていたようだから、後で拳骨とお小言をもらわなければなるまい。だが何はともあれ、級友の前で赤ん坊のように背負われているのは恥ずかしいので、まずは降ろしてもらいたかった。なのに、小平太は三治郎を乗っけたまま更に金吾に話しかける。

「ところで金吾」

「はい?」

「よかったなあ、お前」

「何がですか」

「秘密だ」

「は?」

「気にするな!」
 何の前触れも無くどさり、と地面に降ろされて思わずひゃっと声を上げてしまった。真っ先に視界に入った乱太郎が気がついた?と聞いてくれる。

「じゃ、私は学園に戻ります。金吾、明日の委員会は三時集合だぞ!」

 言うなり、小平太は三治郎を背負っていたのと全く変わりない速度で走りだして行ってしまった。

「…き、きんご」
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「大丈夫、三治郎?」

「…僕、金吾は本当にすごいと思う…」

 あの七松先輩について委員会をやっているのだ、しかも、倒れたら右へ左への暴走列車で学園まで送り届けられるわけで。
 説明しようとした三治郎は、しかしすっかり乗り物酔いでそれどころではなかったからもう一度目を閉じた。



 天狗。人跡稀な山中に遊び、人を誑かし子供を攫うが、同時に秘術を授け病を癒す。
 一説によれば、牛若丸は鞍馬天狗により剣術を習ったのだそうな。



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