恋情、または復讐。



 脳味噌が溶けて泡立っているような暑さだ。仙蔵の足元の小石が、水気の一つも無い乾いた大地を転がる。うなじに張り付く髪の毛の筋が厭わしい。
 目を上げるも、遠くはぼやぼやと蜃気楼に隠れて確かには見えず、この先にあるのが山であるのか海であるのか、仙蔵にはまったく見当がつかなかった。もしかすると、ずっと先までこの荒野しかないのかもしれない。
 だが、留まっていては干からびるだけである。半分諦めたような心持で仙蔵はただ前に進む。一歩一歩踏み出す足に、熱をはらんだ大気が蛇のように絡みつく。
 誰か居ないのか。いや、人でなくてもいい。とにかく、この石と砂と熱波以外の何かを見たかった。砂埃で黄色みを帯びた空気の向こうに広がる空には、ちぎれ雲一つだって無いのだ、畜生。
 と、耳が何か音を拾った。
 さらさら。
 さらさら。
 水が流れている。
 熱波に押しつぶされそうだった身がしゃんと起き、歩調が早まった。ずんずんと音のする方に近づいていく。
 すると、からからに乾いた大地の真ん中に一本のせせらぎが流れているのが見えた。こんな荒野のど真ん中にあるのが奇跡と言ってもいいほど極々細いせせらぎだったが、水の流れは早く、陽光を反射して澄んでいる。
 しゅるり。
 と折よく風も吹いてきた。
 これでようやく涼が取れる。仙蔵はほっと息をついて水中に手を差し伸べた。




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