>カニバリズム(R−18)
「文次郎、私を喰え」
高揚の波が過ぎ去ったあとの脱力感と疲労感に襲われるまま、文次郎は自身を抜くこともせず、どちらのものともつかぬ汗と体液にまみれて怠惰に仙蔵にのしかかったままでいた。だから唐突に彼の下でそんな言葉が発せられた時、ぴったりと密着した薄い胸板の、微かな振動まで感じられたのだ。
「今喰っただろ」
薄目を開けて、戯れ程度に重い腰をゆすってやれば、あれだけ啼いたというのにまだ仙蔵は甘やかな吐息でそれに応えた。
「んっ…ふ…ちが、そういうことじゃない」
再び文次郎の腰は泥に引き込まれるように定位置に沈む。
「文字通りの意味だ。私を喰え。骨の一かけらも残さずに」
快楽の余韻で霞がかかった頭に、かすれた声が茫洋と響く。仙蔵の首に歯を立てた。塩辛い味がした。
「お前が遠い。皮膚が邪魔だ。一点で繋がるだけじゃ足りない。だから最初はお前を喰おうと思ったんだ。そうしたらもうお前と私を隔てるものはなにも無くなるから」
仙蔵は熱に浮かされたように喋り続ける。
「だけどそれだと、私はお前の姿が見えない。声が聞けない。きっと私は耐えられない。せっかくひとつになれたのに、お前と一緒に生きてゆこうと思ったのに」
「だから俺に喰えと」
「察しがいいな」
仙蔵の口を唇で塞ぐ。ぺちゃり、と水音が響いて、舌が絡んだ。
仙蔵の口内でぐねぐねと動く柔らかい肉塊を文次郎の舌が抑えつけ、弾力と舌触りを楽しむ。粘膜越しの熱は確かによほど熱かった。
唇を離せば、二人の混ざった唾液が糸を引き、仙蔵の白い喉に落ちた。
「悪いな、俺は好きなものは最後までとっておくんだ」
「約束だぞ」
上気した頬を緩めて笑う仙蔵の目尻からは一筋透明な水が垂れていて、舌を伸ばしてそれを舐めとるとやはり塩辛かった。
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